事業をたたむことを決意した個人事業主の皆さん、日々の運営、本当にお疲れ様でした。
廃業後の生活設計を考える中で、「個人事業主でも、会社員みたいに失業保険はもらえるのだろうか」「もしもらえるなら、どうすればいいの?」といった切実な疑問や不安を抱え、情報を探しているのではないでしょうか。
この記事では、会社員として働いていた頃の雇用保険の権利を活用して、廃業後に失業保険(雇用保険の基本手当)を受け取るための具体的な条件や、申請方法を誰にでも分かるようにステップ形式で徹底的に解説します。
また、「バレない方法」といった気になるキーワードの真実にも触れ、あなたが不正のリスクを冒すことなく、安心して次のステップへ進むための正しい知識をお伝えしますので、ぜひ最後までじっくりとご覧ください。
結論として個人事業主は特定の条件を満たせば失業保険がもらえます
まず最初に皆さんが最も知りたい結論からお伝えします。
個人事業主という立場そのものでは失業保険の対象にはなりませんが、事業を始める前に会社員として雇用保険に加入していた期間などの特定の条件を満たせば、廃業後に失業保険、正確には「雇用保険の基本手当」を受け取ることが可能です。
ここでは、その大前提となる制度の仕組みと、多くの人が勘違いしている重要なポイントについて、分かりやすく解説していきます。
個人事業主自身は雇用保険に加入できないという大原則を知っておきましょう
大前提として、個人事業主やフリーランスは、自分自身で雇用保険に加入することはできません。
なぜなら、雇用保険は会社などに「雇用」される「労働者」が、失業した際の生活を守るためのセーフティネット制度だからです。
事業主は労働者ではないため、この制度の対象外となります。
そのため、個人事業主として事業を運営している期間だけでは、失業保険をもらう権利は一切発生しないのです。
この点をまず理解しておくことが、全ての話のスタート地点になります。
しかし、ご安心ください。
この記事で解説するのは、あなたが独立前に会社員として働いていた時代に積み立てていた、その貴重な雇用保険の権利を、廃業というタイミングで活用する方法なのです。
失業保険をもらうための鍵は会社員時代の雇用保険加入歴にあります
あなたが失業保険をもらえるかどうかは、個人事業主になる前の会社員時代に、どれくらいの期間、雇用保険に加入していたかにかかっています。
具体的には、会社を辞めてから個人事業主として開業するまでの期間が短く、雇用保険の受給資格が「手つかずのまま残っている」状態である必要があります。
例えば、会社を退職した直後、ハローワークで失業保険の受給手続きをせずに、すぐに事業を始めたとします。
この場合、あなたの失業保険を受け取る権利は消滅したわけではなく、ただ「保留」されている状態になっているのです。
この保留されていた権利を、事業の廃業というタイミングで「失業状態」になったことを証明し、再び有効化して手当を受け取るというのが、基本的な考え方になります。
廃業は会社都合退職と同じ扱いで失業保険の条件が有利になる場合があります
個人事業主の「廃業」は、単に「仕事を辞めたい」という自己都合退職とは事情が異なります。
事業の継続が困難になったという客観的な事実があるため、倒産や解雇といった「会社都合退職」に準ずる「正当な理由のある自己都合退職者」として判断されるケースがほとんどです。
これが、失業保険をもらう上で非常に有利に働きます。
具体的には、通常の自己都合退職の場合に課される2ヶ月または3ヶ月の給付制限期間がなく、7日間の待機期間だけで済んだり、給付金がもらえる合計日数(所定給付日数)が長くなったりする大きなメリットがあるのです。
ですから、廃業という事実は、決して不利になるものではなく、むしろ受給条件面でプラスに働く可能性が高いと覚えておきましょう。
個人事業主が失業保険をもらうためにクリアすべき具体的な3つの条件
それでは、具体的にどのような条件をクリアすれば、個人事業主が廃業後に失業保険をもらえるのでしょうか。
ここでは、絶対に外すことのできない3つの重要な条件について、一つひとつ詳しく解説していきます。
ご自身の会社員時代から現在までの状況を思い返しながら、条件を満たしているか丁寧に確認してみてください。
失業保険をもらうための3大条件
- 会社員を辞めてから1年以内に個人事業主として開業していること
- 会社員時代の雇用保険の加入期間が12ヶ月以上あること
- 失業保険の受給期間延長の手続きを事前に行っていること
条件その1は会社員を辞めてから1年以内に個人事業主として開業していることです
まず一つ目の絶対条件は、会社を退職した日の翌日から1年以内に、個人事業主として「開業届」を税務署に提出していることです。
これは、雇用保険の基本手当を受けられる期間(受給期間)が、原則として「離職日の翌日から1年間」と定められているためです。
この1年という期間内に事業を開始していれば、「すぐに働けない状態(=事業に専念する状態)」になったと見なされ、後述する受給期間の延長申請の対象となる可能性が出てきます。
もし、退職から開業までの期間が1年以上空いてしまっている場合は、残念ながら受給資格が失効している可能性が非常に高いです。
ご自身の開業日を、税務署に提出した開業届の控えで正確に確認しましょう。
条件その2は会社員時代の雇用保険の加入期間が12ヶ月以上あることです
二つ目の条件は、会社員として最後に勤めていた職場を辞める日以前の2年間に、雇用保険に加入していた期間(被保険者期間)が通算して12ヶ月以上あることです。
これは失業保険を受け取るための最も基本的な要件であり、個人事業主だから特別というわけではありません。
「通算して12ヶ月」とは、被保険者であった期間のうち、賃金支払いの基礎となった日数が11日以上ある月を1ヶ月として計算します。
正社員であればほとんどの場合この条件はクリアできますが、派遣社員や契約社員、パート・アルバイトだった方でも、雇用保険に加入していればもちろん対象となります。
不安な方は、過去の給与明細を見て「雇用保険料」が天引きされていたかを確認してみると良いでしょう。
条件その3は失業保険の受給期間延長の手続きを事前に行っていることです
三つ目の、そして最も重要かつ見落としがちな条件が、この「受給期間の延長申請」です。
本来、失業保険を受けられるのは会社退職後1年間ですが、その間に起業するなどですぐに働けない場合、その旨をハローワークに申し出ることで、受給できる期間を最大で3年間、先延ばしにできる制度があります。
この手続きは、会社を退職して30日が経過した後の1ヶ月以内に、お住まいの地域を管轄するハローワークで行う必要があります。
この申請を済ませておくことで、本来1年間の受給期間+延長した3年間=最長4年以内であれば、廃業後に失業保険をもらう権利が残っていることになるのです。
「そんな手続き、忘れていた…」という方も、事情によっては特例が認められるケースもあるため、諦めずにハローワークに相談してみることを強くお勧めします。
廃業後に失業保険をもらうための具体的な方法を5ステップで徹底解説
3つの条件をクリアしていることが確認できたら、次はいよいよ実際の手続きに進みます。
ここでは、事業の廃業を証明する「廃業届」の提出から、実際に失業保険が口座に振り込まれるまでの一連の流れを、5つの具体的なステップに分けて解説します。
この通りに進めれば、初めての方でも迷うことなく手続きを完了させることができるはずです。
ステップ1は税務署へ廃業届を提出して控えをもらうことです
最初に行うべき最重要ミッションは、あなたの事業所の所在地を管轄する税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」、通称「廃業届」を提出することです。
この書類は国税庁のホームページからダウンロードできますので、必要事項を記入して窓口に提出しましょう。
その際、必ず「提出用」と「控え用」の2部を作成し、控えの方に税務署の受付印を押してもらってください。
この受付印が押された控えが、あなたが公的に事業を廃業したことを証明する唯一無二の書類となり、後のハローワークでの手続きで絶対に必要になります。
もしe-Tax(電子申告)で提出した場合は、受付完了を知らせる「受信通知」を印刷したものが控えの代わりになります。
ステップ2は必要書類を準備してハローワークへ行くことです
廃業届の控えが準備できたら、その他の必要書類をすべて揃えて、あなたの住所地を管轄するハローワークへ向かいます。
ここでつまずかないよう、事前にしっかり準備しましょう。
主に必要となるのは、以下の書類です。
- 廃業届の控え(受付印があるもの、またはe-Taxの受信通知)
- 雇用保険被保険者離職票(1と2)(会社員時代の最後の職場から交付されたもの)
- マイナンバーカード(ない場合は通知カード+運転免許証など)
- 証明写真2枚(縦3.0cm×横2.5cm、最近3ヶ月以内のもの)
- 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード(手当の振込先)
特に重要なのが「離職票」です。もし紛失してしまった場合は、前の会社に連絡して再発行を依頼するか、ハローワークで再発行の手続きについて相談してください。
ステップ3はハローワークで求職の申し込みと受給資格の決定手続きをすることです
全ての書類が揃ったら、いよいよハローワークの窓口へ。
窓口で「個人事業を廃業したので、失業保険の手続きに来ました」と明確に伝え、持参した書類一式を提出します。
ここでまず「求職の申し込み」を行い、職員との簡単な面談を通じて、あなたが現在「失業状態」にあり、積極的に次の仕事を探す意思があることを確認してもらいます。
その後、提出した離職票や廃業届の控えを元に、職員が失業保険をもらう資格があるかどうかの「受給資格の決定」を行います。
この時に、あなたがいつから、いくら、どのくらいの期間もらえるのか、といった具体的な説明も受けることになりますので、不明な点は遠慮なく質問しましょう。
ステップ4は雇用保険受給者初回説明会へ参加することです
無事に受給資格が決定すると、後日開催される「雇用保険受給者初回説明会」への参加を指示されます。
この説明会は、失業保険の詳しい仕組みや、今後の手続きの具体的な流れ、そして不正受給に関する厳しい注意点など、非常に重要な内容を説明する会です。
面倒に感じるかもしれませんが、必ず指定された日時に出席してください。
この説明会に参加すると、今後の手続きで必須となる「雇用保険受給資格者証」と、求職活動を報告するための「失業認定申告書」という大切な書類が渡されます。
ステップ5は失業の認定日にハローワークへ行き求職活動を報告することです
説明会の後は、原則として4週間に1度設定される「失業の認定日」にハローワークへ行き、失業認定申告書を提出する必要があります。
この申告書には、前回の認定日から今回までの4週間の間に、どのような求職活動を何回行ったかを具体的に記入します。
例えば、ハローワークで職業相談をしたり、求人サイトのdodaやリクナビNEXTなどで企業の求人に応募したりといった活動がこれにあたります。
この求職活動の実績(原則2回以上)が認められると、晴れて「失業状態」であると認定され、後日、指定した口座に4週間分の失業保険が振り込まれる、という流れになります。
個人事業主の失業保険申請でバレない方法という考え方の危険性
インターネットで情報を探していると「個人事業主 失業保険 バレない 方法」といった、少し気になるキーワードを目にすることがあります。
これは、何らかのやましい事情を隠したまま手続きをしたい、という気持ちの表れかもしれませんが、この考え方には計り知れない大きなリスクが伴います。
ここでは「バレない方法」が意味することの真実と、その考え方がいかに危険であるか、そして絶対にやってはいけないことについて解説します。
バレない方法ではなく正しい手順で申請することが唯一の安全な方法です
まず、心に刻んでいただきたいのは、失業保険の申請において「バレない裏技」や「抜け道」といったものは一切存在しないということです。
むしろ、何かを隠したり、事実を偽ったりして申請しようとすること自体が、不正受給につながる最も危険な行為です。
ハローワークは、あなたが正直に現状を話し、ルールに則って手続きをすれば、親身に相談に乗ってくれる公的機関です。
廃業という事実を隠したり、収入があるのに無いと偽ったりすることは絶対にやめましょう。
唯一「バレずに」という言葉がポジティブに当てはまるとすれば、それは「周囲の人に知られることなく、プライバシーを守りながら静かに手続きを進める」という意味合いでしょう。
これは、もちろん何の問題もなく可能です。
収入を隠して失業保険をもらうことは不正受給であり必ずバレます
最も典型的で悪質なケースが、廃業したと偽りながら、実は水面下で事業を続けて収入を得ているにもかかわらず、失業保険を満額受け取ることです。
これは明確な不正受給であり、詐欺罪に問われる可能性のある犯罪行為です。
「どうせバレないだろう」という考えは非常に甘く、ハローワークは税務署や市区町村の役所などと常に連携しており、マイナンバーを通じて個人の所得情報を把握しています。
また、取引先から税務署に提出される支払調書や、時には第三者からの通報など、収入を隠していても発覚するルートは数多く存在します。
もし不正が発覚した場合、受け取った金額の3倍の額を返還する「3倍返し」という非常に重いペナルティが科されるほか、悪質な場合は刑事告訴されることもあるのです。
再就職の意思がないのに失業保険をもらうことも不正行為にあたります
失業保険は、あくまで「積極的に再就職する意思と能力があるにもかかわらず、職業に就けないでいる人」の生活と求職活動を支えるための制度です。
そのため、最初から再就職するつもりがなく、単なる生活費の足しや、次の事業の準備資金にする目的で申請することは、制度の趣旨に反する不正行為となります。
認定日ごとに行う求職活動の報告は、この「就職の意思」を客観的に示すためのものです。
応募する気もないのに応募したフリをするなど、求職活動をしているフリをするだけでは、いずれ職員との面談などで見抜かれます。
何より、それはあなた自身の貴重な時間を無駄にする行為です。
廃業を機に、一度会社員に戻るのか、あるいは別の形で働くのか、ご自身のキャリアと真剣に向き合う機会と捉えましょう。
個人事業主が失業保険を申請する際に準備すべき書類一覧
失業保険の申請を一日でも早く、そしてスムーズに進めるためには、事前の書類準備が何よりも重要です。
「あれが足りない、これが違う」と何度もハローワークへ足を運ぶことにならないよう、ここでご紹介する書類一覧をチェックリストとして活用し、完璧に揃えてから窓口に向かいましょう。
必須書類 | 入手場所・注意点 |
① 廃業届の控え | 管轄の税務署で入手。受付印のある原本が必要。 |
② 雇用保険被保険者離職票(1と2) | 退職した会社から交付。紛失時は会社に再発行を依頼。 |
③ 個人番号確認書類 | マイナンバーカード、通知カード、マイナンバー記載の住民票など。 |
④ 身元確認書類 | 運転免許証、マイナンバーカードなど写真付きのもの1点。なければ保険証など2点。 |
⑤ 証明写真(2枚) | 縦3cm×横2.5cm。3ヶ月以内に撮影したもの。 |
⑥ 本人名義の預金通帳・カード | 手当の振込先口座。一部ネット銀行は不可の場合あり。 |
廃業した事実を証明するための廃業届の控えは絶対に必要です
個人事業主が失業保険を申請する上で、会社員の場合と最も異なる、そして最も特徴的で重要な書類がこの「廃業届の控え」です。
正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」の控えで、税務署の受付印がはっきりと押されているものが必要です。
これがなければ、あなたが事業を完全に辞めて「失業状態」にあることを公的に証明できません。
もし手元にない、あるいはまだ提出していない場合は、何よりもまず税務署で手続きを済ませることから始めてください。
廃業届は事業を辞めてから1ヶ月以内に提出するのが原則ですが、遅れても問題なく受理されますので、まずは提出することが肝心です。
会社員時代の雇用保険の証明となる離職票1と離職票2
会社を退職した際に、最後の勤務先から発行される「雇用保険被保険者離職票-1」と「雇用保険被保険者離職票-2」の2種類が必要です。
離職票1はあなたの個人情報や手当の振込先口座を記入するための用紙、離職票2はあなたの離職理由や退職前6ヶ月間の賃金額が記載された、給付額を決めるための重要な書類です。
もし紛失してしまった場合は、速やかに退職した会社の人事部や総務部に連絡して再発行を依頼しましょう。
万が一、会社が倒産していたり、再発行に応じてくれなかったりする場合には、ハローワークで相談すれば、ハローワークから会社へ発行を促してもらうことも可能です。
本人確認とマイナンバー確認のための身元証明書類
現在、行政手続きには本人確認とマイナンバーの確認が必須となっています。
マイナンバーカードを所有している方は、それ1枚で両方の確認が完了するので最もスムーズです。
マイナンバーカードがない場合は、以下のいずれかの組み合わせで持参する必要があります。
- パターンA:マイナンバー通知カード + 運転免許証やパスポートなど顔写真付き身分証1点
- パターンB:マイナンバーが記載された住民票 + 運転免許証やパスポートなど顔写真付き身分証1点
- パターンC:マイナンバー通知カード + 健康保険証や年金手帳など顔写真なし身分証2点
このように組み合わせが複雑になるため、事前に管轄のハローワークのウェブサイトで確認するか、電話で問い合わせておくと確実です。
その他に証明写真や本人名義の預金通帳などが必要になります
上記の主要な書類の他に、手続きを完了させるためにいくつかの持ち物が必要です。
まず、手続き後に交付される「雇用保険受給資格者証」に貼付するための「証明写真」が2枚必要です。
サイズは縦3.0cm×横2.5cmで、最近3ヶ月以内に撮影した、上半身が写っている正面向きのものを用意しましょう。
また、失業保険を振り込んでもらうための「本人名義の預金通帳またはキャッシュカード」も忘れてはいけません。
一部のインターネット専業銀行などは指定できない場合があるため、ゆうちょ銀行やメガバンク、地方銀行などの一般的な金融機関の口座を用意しておくと安心です。
個人事業主がもらえる失業保険の金額と期間はどのくらいか
失業保険をもらえることは分かったけれど、具体的に「いくら」「どのくらいの期間」もらえるのかは、生活設計を立てる上で最も気になる部分だと思います。
ここでは、失業保険の給付額(1日あたりの金額)と給付日数(もらえる期間)が、どのようにして決まるのか、その計算方法の基本的な考え方について解説します。
もらえる金額は会社員時代の給料を元に計算される基本手当日額で決まります
失業保険で1日あたりにもらえる金額のことを「基本手当日額」と呼びます。
この金額は、原則として、離職する直前6ヶ月間に支払われた給料(賞与は除く)の合計を180で割って算出した「賃金日額」に、所定の給付率(およそ50%~80%)を掛けて決定されます。
この給付率は、賃金日額が低い人ほど高くなるように設定されており、低所得者の生活をより手厚く支える仕組みになっています。
例えば、退職前6ヶ月の給料総額が180万円だった場合、賃金日額は1万円となります。
この場合、基本手当日額はその50%~80%、つまり1日あたり5,000円から8,000円程度が目安となります。
ただし、基本手当日額には年齢区分に応じた上限額と下限額が定められています。
もらえる期間は年齢や雇用保険の加入期間と離職理由によって変わります
失業保険がもらえる合計の日数のことを「所定給付日数」と呼びます。
この日数は、あなたの「年齢」「雇用保険に加入していた期間」「離職した理由」という3つの要素の組み合わせによって決まります。
前述の通り、個人事業主の廃業は「正当な理由のある自己都合退職」として扱われることが多く、これは倒産や解雇などと同じ「特定受給資格者」の区分になるため、一般的な自己都合退職よりも給付日数が大幅に優遇されます。
例えば、35歳で雇用保険の加入期間が10年未満の場合、通常の自己都合退職なら給付日数は90日ですが、廃業の場合は特定受給資格者として120日になるといった具合です。
具体的なシミュレーションで失業保険の受給総額をイメージしてみましょう
具体的な例で、もらえる総額をイメージしてみましょう。
【Bさんのケース】
- 年齢:38歳
- 会社員時代の勤務年数:8年間(雇用保険加入期間)
- 独立後の事業期間:3年間Web制作事業を営み、この度廃業
- 退職前6ヶ月の平均月収:約35万円
このBさんの場合、まず退職前の給料から計算された「基本手当日額」が仮に6,000円だったとします。
次に、Bさんの年齢(35歳以上45歳未満)と雇用保険の加入期間(5年以上10年未満)から、特定受給資格者としての「所定給付日数」は180日となります。(※自己都合退職の場合は90日)
したがって、Bさんが受け取れる失業保険の総額は、基本手当日額6,000円 × 所定給付日数180日 = 1,080,000円と計算できます。
これはあくまで一例であり、実際の金額は個々の状況によって異なりますので、ハローワークで渡される「雇用保険受給資格者証」で正確な金額を確認してください。
失業保険の受給中に次の個人事業の準備をすることは可能か
廃業後、失業保険で当面の生活を安定させながら、その期間中に次の事業の準備やスキルアップを進めたい、と考える方も少なくないでしょう。
しかし、この失業保険の受給期間中の過ごし方には、いくつかの注意点があります。
ここでは、失業保険の受給中に行って良いことと、収入や活動についてハローワークへの報告義務があることについて、具体的に解説します。
再就職活動の一環としてのスキルアップや市場調査は問題ありません
失業保険の受給中は、あくまで「再就職」を目指すことが大前提です。
そのため、再就職に有利になるような活動は、求職活動の一環として積極的に行うべきです。
例えば、Webデザインのスキルを上げるためにオンライン講座を受講したり、プログラミングスクールに通ったりすることは、立派な求職活動として認められます。
また、次にどのような事業に需要があるかといった市場調査や、事業計画の構想をノートに練ることも、それ自体が直接収入に結びつくものでなければ全く問題ありません。
大切なのは、これらの活動を「再就職のための準備」として、失業認定申告書に正直に記載し、就職の意思があることを示すことです。
具体的な開業準備を開始した場合はハローワークへの申告が必要です
単なる構想や勉強の段階を超えて、具体的な開業準備を開始した場合は注意が必要です。
例えば、「事務所の賃貸契約を結ぶ」「事業用のウェブサイトを公開して集客を始める」「法人設立の登記手続きを行う」といった行動は、その時点で「就職または就業」したとみなされる可能性が高いです。
このような具体的な準備を始めた場合は、速やかにハローワークに申告する義務があります。
申告すれば、一定の要件を満たすことで失業保険の代わりに「再就職手当」がもらえる可能性もあります。
これを隠して手当を受け取り続けると不正受給になりますので、「いつからが事業開始ですか?」と正直に相談しましょう。
アルバイトや手伝いで収入を得た場合は必ず申告する義務があります
受給期間中に、当面の生活費の足しにするため、短期のアルバイトをしたり、友人の仕事を手伝って収入を得たりすることもあるかもしれません。
このような場合、たとえ1日の手伝いや数千円の収入であっても、働いた日や収入額を、失業認定申告書に必ず正直に記入して申告しなければなりません。
申告すれば、収入を得た日は失業保険の支給が先送りになるだけで、総額が減るわけではなく、ペナルティも一切ありません。
しかし、このわずかな収入を隠して申告しなかった場合、全額が不正受給とみなされ、厳しい罰則が科せられます。
「少しだけだからバレないだろう」という安易な考えは、絶対に持たないでください。
個人事業主の失業保険申請で多くの人が疑問に思うこと
ここまで具体的な方法を解説してきましたが、それでも個別の状況によって「自分の場合はどうなんだろう?」と様々な疑問が湧いてくることでしょう。
ここでは、個人事業主の方が失業保険を申請する際によく抱く質問とその答えを、Q&A形式で分かりやすくまとめました。あなたの疑問もここで解決するかもしれません。
Q. 廃業届を出さずに「休業」という形でも失業保険はもらえますか?
A. 原則として、もらえません。
失業保険をもらうためには、事業を完全に辞めたことを証明する「廃業届」の提出が必須です。
「休業」という状態では、いつでも事業を再開できる可能性があるとみなされ、働く意思がないわけではないが職に就けない「失業状態」にあるとは認められないため、失業保険の対象にはなりません。
もし、またいつか同じ事業を再開する可能性があると考えている場合でも、一度きちんと廃業の手続きを踏んで失業保険を受給し、生活を立て直してから、改めて新規で開業するというのが正しい手順となります。
Q. 会社を辞めてからかなり時間が経っていても失業保険はもらえますか?
A. 「受給期間の延長申請」をしていれば、もらえる可能性は十分にあります。
会社を辞めてから個人事業主として活動していた期間が長い場合でも、諦めるのはまだ早いです。
鍵となるのは、会社退職後に「受給期間の延長申請」をしていたかどうかです。
この手続きをしていれば、本来の1年間に最大3年間を加えた、合計4年間まで受給資格が保持されます。
例えば、2020年3月に会社を辞め、すぐに延長申請をし、2024年2月に廃業した場合でも、手続きの対象となる可能性があるのです。
延長申請を忘れていた場合でも、ハローワークに正直に事情を説明し、相談してみる価値はあります。
Q. 複数の会社に勤務していた場合、雇用保険の加入期間は合算できますか?
A. はい、一定の条件を満たせば合算(通算)することが可能です。
具体的には、ある会社を辞めてから、次の会社に就職するまでの空白期間(失業していた期間)が1年以内であれば、それぞれの会社での加入期間を通算して計算することができます。
例えば、A社で5年間、B社で3年間勤務し、その間のブランクが半年だった場合、加入期間は合計8年として扱われ、給付日数が長くなるなどのメリットがあります。
ただし、一度でも失業保険を受け取ってしまうと、それ以前の加入期間はリセットされるので注意が必要です。
ハローワークで手続きをする際に職歴を正確に申告すれば、職員が合算できるかどうかを判断してくれます。
失業保険がもらえない場合に検討すべき個人事業主向けの公的支援
ここまで読んできて、残念ながら「自分は失業保険の条件を満たしていなかった…」とがっかりされた方もいるかもしれません。
しかし、落ち込む必要はありません。
廃業した個人事業主が利用できる公的な支援制度は、失業保険以外にもちゃんと用意されています。
ここでは、あなたの次の一歩を支えるセーフティネットとして、活用できる可能性のある制度をいくつかご紹介します。
事業再開を目指すなら日本政策金融公庫の再挑戦支援融資を検討しましょう
もし、今回の廃業を糧に、新たな事業で再チャレンジしたいという強い意欲があるなら、日本政策金融公庫の「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」を検討する価値が非常に高いです。
これは、廃業歴がある方などを対象とした非常に低金利の融資制度で、実現可能な事業計画をしっかりと立てれば、新たなスタートを切るための事業資金を調達できる可能性があります。
単にお金が借りられるだけでなく、融資の相談プロセスを通じて、専門家のアドバイスを受けながら事業計画をブラッシュアップできるという大きなメリットもあります。
一度、お近くの日本政策金融公庫の窓口やウェブサイトで詳細を確認してみることをお勧めします。
生活に困窮している場合は生活福祉資金貸付制度という選択肢があります
廃業によって収入が完全に途絶え、当面の生活費すらままならない、という深刻な状況に陥ってしまった場合は、決して一人で抱え込まないでください。
お住まいの市区町村にある社会福祉協議会が窓口となっている「生活福祉資金貸付制度」を利用できる可能性があります。
これは、低所得者世帯などを対象に、生活を再建するまでの間に必要な資金を無利子または超低利子で貸し付ける公的な制度です。
緊急小口資金や総合支援資金など、あなたの状況に応じた様々な資金の種類がありますので、まずは地域の社会福祉協議会に電話をし、専門の相談員に現状を正直に話してみてください。
国民健康保険料や国民年金保険料の減免や免除の申請も忘れずに行いましょう
廃業によって所得が大幅に減少した場合、国民健康保険料や国民年金保険料の支払いは、家計に重くのしかかります。
このような場合、お住まいの市区町村の役所の窓口で申請することにより、保険料の減額や免除(減免)を受けられる制度があります。
特に国民健康保険料は、廃業という「非自発的失業」に該当する場合、前年の所得に関わらず、所得を30/100として計算する大幅な軽減措置が適用されることがあります。
これらの手続きは、黙っていても役所が自動的にやってくれるわけではなく、自分自身で申請する必要があります。
廃業したら、まず役所の国民健康保険と国民年金の担当窓口へ相談に行く、と覚えておきましょう。
まとめ
今回は、廃業を決意した個人事業主の方が、会社員時代の権利を活用して失業保険をもらうための条件や具体的な方法について、詳しく解説してきました。
最後に、この記事の最も重要なポイントを改めて振り返り、あなたが次の一歩を安心して踏み出すための要点を確認しましょう。
この記事のまとめ
- 個人事業主でも条件を満たせば失業保険はもらえる!
会社員時代の雇用保険加入歴と、退職後の手続きが鍵。諦めずに自身の状況を確認しよう。 - 「正しい手順」が最強の近道!
「バレない方法」などの裏技探しはNG。廃業届を提出し、ハローワークで正直に手続きを進めることが最も安全で確実。 - 失業保険はあなたの権利であり、セーフティネット!
経済的な不安を解消し、次のキャリアへ進むための大切な制度。条件に合うなら、ためらわずに積極的に活用しよう。
個人事業主でも会社員時代の雇用保険を活用すれば失業保険はもらえます
個人事業主という立場自体では雇用保険に加入できませんが、独立前に会社員として雇用保険に加入していた期間があれば、その権利を廃業時に活用して失業保険を受け取ることが可能です。
これまで諦めていた方も、ご自身の経歴を再確認し、条件に当てはまるか検討してみる価値は大いにあります。
特に、会社を辞めてからすぐに事業を始めた方は、対象となる可能性が高いと言えるでしょう。
失業保険をもらうためには廃業届の提出と正しい手順での申請が不可欠です
失業保険をもらうためには、まず税務署に廃業届を提出し、事業を完全に終了させたことを公的に証明する必要があります。
その上で、ハローワークにて正しい手順に則って申請を進めることが何よりも重要です。
「バレない方法」といった安易な裏技を探すのではなく、正直に状況を説明し、定められたルールを守ることが、結果的にあなた自身を守る最も安全で確実な方法なのです。
手続きで不明な点があれば、必ずハローワークの職員に相談しましょう。
失業保険は再就職までの大切なセーフティネットなので積極的に活用しましょう
失業保険は、あなたが安心して次のキャリアを探すための生活を支える、国が用意した非常に重要なセーフティネットです。
廃業という大きな決断をした後、経済的な不安なく求職活動に専念できることは、精神的にも計り知れない助けとなります。
受給資格の条件に該当する方は、それはあなたが過去に働いて得た正当な権利です。
ためらうことなくこの権利を積極的に活用し、ご自身の輝かしい未来のために役立ててください。
この記事が、あなたの新たなスタートの一助となれば幸いです。
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